あめのて

活字を垂れ流す

スポーツカーに憧れていた

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小学生の頃から、スポーツカーが好きだった。

好きになったきっかけは、車好きの父親と友達の影響だ。
とはいっても、僕が好きなのはスポーツカーであり、車好きの父や友達からしたら、僕は所謂にわかである。
僕の父親は運転がとても得意で、自分の車は自分の手で何から何まで弄っているし、車に関する知識もそこらの整備士には負けないほどだ。
その車好きの友達は、今では本物の整備士としてディーラーで働いている。

一方僕はというと、車を自分で弄ったことなどタイヤ交換ぐらいしかなく、車に関する知識も素人に毛が生えた程度。
車の運転もそんなに得意ではなく、職業も車とは無関係だ。
僕の車の知識のほとんどはゲームや漫画、グランツーリスモや頭文字Dなどからで、車好きだなんて名乗るのが恥ずかしいぐらいだ。

しかしこれだけは自信を持って、声を張って言うことができる。

僕はスポーツカーが大好きだ。

スポーツカーが好きという思いだけは、自信を持って主張することができる。
なぜ好きかと聞かれても、第三者を説得できるほどの理由はないが、本当に好きという気持ちは往々にしてそういうものだろう。
ただ優れた乗り物、優れた機械に、それを自由自在に操縦することに憧れていた。
生活用品ではない、早く走るために、思い通りに走るために設計された乗り物を、自分の手で所有し運転してみたかった。
それが僕にとってはとてもかっこいいことであり、何よりも楽しそうなことだった。

当時好きだった車は、AE86はもちろん、RX-7、GTR、ランサー、インプ、インテグラ、ロードスター、スープラ、Zなど、日本車を代表するスポーツカー達だ。将来は自分も、こういったスポーツカーに乗りシフトノブをガチャガチャしながら街中を走りまわることを夢見ていた。

そう、僕にとっての夢だったのだ。

もちろん、必ず叶えるつもりの夢だったし。
実現するための努力も惜しむつもりはなかった。
でも、僕にとっては「ミュージシャンになりたい!」ぐらいの大きな夢であり、言うなれば最終目標のようなものだった。
つまり、スポーツカーを所有するというのは、とてつもなく難しいことだと思っていたのだ。

しかし僕は現在、スポーツカーを所有している。
憧れだった車種の内の一つ、フェアレディZの Z33型に毎日の様に乗っている。
あの頃思い描いていた通り、6速MTをガチャガチャしながら様々なテクニックを駆使してスポーツカーを運転している。
21歳という年齢にして、あの頃最終目標にしていた夢が叶ってしまったのだ。

何も僕が特別な努力をしたわけでも、夢を叶えるために過酷な思いをしたわけでもない。
単に、あの頃僕が思い描いていたよりも、それはずっと簡単なことだったというだけなのだ。
今どき、中古のマニュアル車なんてそんなに高くはない。
僕のような中卒で就職もしていないようなフリーランスでも、ローンを組めば無理をすること無く所有できるものだったのだ。
車種や状態によっては、大学生がよく乗っているような燃費のいい軽自動車よりもずっと安く買うことができる。
僕の買った車もそうだった。

当時、まだ小学生だったスポーツカーに憧れる少年がそういう現実をしらないことは仕方がない。
知らなくて当然だ。
彼にとってスポーツカーは夢であり、憧れであり、最終目標だったのだから。
しかし現実は違った。
夢を叶えるために、どんな努力も過酷な試練も乗り越えることを覚悟した少年は、気がついたら正真正銘のスポーツカーに乗っていた。

もちろん幸せである。
好きな車に乗れることの幸せを噛み締めている。
スポーツカーってやっぱり素晴らしいなと、毎日実感しているし、心から買ってよかったと思っている。
スポーツカー以外の車に乗るなんて今ではもう考えられない。

それでもやっぱり、ちょっとしっくりこないのだ。
何かが違うのだ。
なんかこう、僕の思っていたのと少し違う。
僕が考えていた、スポーツカーを所有することとは、やっぱりちょっとズレがあるのだ。
もちろん、今の車を買うにあたって妥協は山ほどした。主に予算と維持費の問題で。
それでも、間違いなく正真正銘のスポーツカーに乗れたのだ。
しかも、大排気量6速MT二人乗りである。
当時の僕ならなんの不満もないだろう。

それでも、夢を叶えたのではなく、叶えてしまった感じが拭えないのだ。
意図せず叶ってしまったような感覚だ。
むしろ、夢を失った感覚に近いかもしれない。

青髪の少女が公園で出会った男性は、宇宙に行くという子供の頃からの夢を「お金」で叶えた。
結果、夢を叶えると同時に夢を失った彼は、自信の人生に満足して浮浪者として不満なく暮らしていた。

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彼の気持ちが、僕にもほんの少しだけ分かる。
きっと、彼よりずっと小規模なものなのだろうけど。

とまあ、色々だらだらと言いはしたが、僕はスポーツカーが今でも好きだし、スポーツカーを所有していることを幸せに感じている。
毎日運転するのが楽しくて仕方がない。
そのことに関して全く不満は無いが、思い描いていた理想とのズレを感じずにはいられないというだけだ。
こういうことは、きっと世界中でいつも起こっていることなのだろう。
理想とのズレ、努力せず得た幸せなど。

僕の場合はこれで夢を失ったわけじゃないし、もっと乗りたい車はいっぱいあるし、今回妥協した分を次に車を買い換えるときに解消することもできる。
僕の夢は終わらないのだ。

まだ発売されてないけど、今一番欲しいクルマはRX-VISIONかな。

photo by yuki_alm_misa

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